1 損害賠償請求の重要性
労働災害(労災)の被害に遭われた場合、労災保険給付を受け取ることができます。
しかし、労災保険では、被害者側が受けた損害のごく一部しか補償されません。
この点、労働災害の発生について、会社側に過失(落ち度)がある場合、労災保険給付では不足する部分の損害を、会社側に対して賠償請求することが可能です。
労働災害の被害者の方やご遺族の方が今後の生活を安定させるためには、十分な補償を受けていただくことが不可欠であり、会社側に対する損害賠償請求をご検討いただくことが大切です。
2 損害賠償請求が可能なケース
(1)安全配慮義務違反が認められるとき
会社側は、労働者が安全で健康に働けるように配慮すべき義務を負っています。
これを安全配慮義務と言います。
会社側に安全配慮義務違反が認められる場合には、被害者側は会社側に対して損害賠償を請求することができます。
安全配慮義務の内容としては、労働安全衛生関係法令を遵守することはもちろん、より広範囲の配慮が必要であると考えられています。
具体的には、設備・作業環境面について、①施設、機械設備の安全化あるいは作業環境の改善対策を講ずる義務、②安全な機械設備、原材料を選択する義務、③機械等に安全装置を設置する義務、④労働者に保護具を使用させる義務、があります。
また、人的措置面として、①安全監視人等を配置する義務、②安全衛生教育訓練を徹底する義務、③労働災害の被害者、健康を害している者等に治療を受けさせ、適切な健康管理、労務軽減を行い、必要に応じて配置換えをする義務、④危険有害業務には有資格者、特別教育修了者等の適任の者を担当させる義務、があります。
会社側に労働安全衛生関係法令の違反が認められ、または上記のような設備・作業環境面あるいは人的措置面で会社側の落ち度がある場合には、会社側に対する損害賠償請求が可能です。
(2)使用者責任が成立するとき
同じ現場で作業をしていた他の従業員の過失(落ち度)により、労働災害の被害に遭うことがあります。
この点、故意または過失によって被害者に損害を与えた加害者は、その損害を賠償する責任を負います。
この責任を不法行為責任(民法709条)と言います。
不法行為責任が認められるための要件は、①加害者に故意または過失があること、②被害者の権利を侵害したこと、③被害者に損害が発生したこと、④加害者の行為と被害者の損害との間に因果関係があることです。
さらに、使用者責任(民法715条)が成立する場合には、加害者本人だけではなく、加害者を雇用している会社に対しても、損害賠償を請求することができます。
使用者責任が認められるための要件は、①加害者と会社との間に使用・被用の関係があること、②加害者の行為について不法行為責任が成立すること、③被害者の損害が会社の事業の執行について加えられたものであることです。
同じ現場で作業をしていた他の従業員の過失により労働災害が発生したときは、使用者責任の要件を満たすことが多く、会社に対して損害賠償を請求できるのが通常です。
3 労災保険の給付だけでは不十分
労災保険の給付では、被害者側が受けた損害のごく一部しか補償されません。
特に、労災保険では、慰謝料が一切補償されません。
この点、怪我をしたことによる傷害慰謝料は、怪我の内容・程度や入通院の期間・日数などにより、大きな怪我であれば数十万円から数百万円以上となるのが通常です。
後遺障害が残ったことによる後遺障害慰謝料は、後遺障害の程度により、110万円(障害等級14級)から2800万円(障害等級1級)程度となります。
死亡事故における死亡慰謝料は、被害者の立場(一家の支柱、母親・配偶者、その他)などにより、2000万円から3000万円程度となります。
しかし、これらの慰謝料については、労災保険からの補償が一切ないのです。
そして、労働災害の被害に遭われた場合、慰謝料以外にも休業損害や逸失利益、死亡事故や重大事故では葬儀費用や介護費用など、様々な損害が発生します。
これらの損害についても、労災保険からの補償は一部に過ぎません。
慰謝料その他の損害について十分な補償を受けるためには、安全配慮義務違反や使用者責任を根拠として、会社に対して損害賠償を請求する必要があります。
4 被害者側に過失がある場合の損害賠償請求
労働災害の発生について、会社側の過失だけではなく、被害者側にも過失があるというケースもあります。
このような場合でも、会社側に対する損害賠償請求が認められるケースが多々ありますので、すぐに諦めてはいけません。
この点、被害者側に過失がある場合、被害者の過失割合分だけ賠償請求できる金額が少なくなります。
これを過失相殺と言います。
例えば、3000万円の損害を受けた場合に、被害者の過失が20%であれば、賠償額は2割減額され、2400万円となります。
被害者側の過失の有無および割合については、複雑で専門的な判断が必要となります。
被害者側としては自身の過失が大きいと感じていても、法律家の評価としては会社側の過失が大きいというケースも多いです。
会社側が本当に安全配慮義務を尽くしていたのであれば、そう簡単に労働災害が発生することはありません。
労働災害の被害に遭われた場合には、ご自身に過失があると感じたとしても、すぐに損害賠償請求を諦めるのではなく、まずは労働災害に詳しい弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
5 弁護士にご相談ください
青森シティ法律事務所の弁護士は、これまでに、労働災害の事案に対応してきた実績があります。
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