青森シティ法律事務所では、相続に関するご相談・ご依頼を多数お受けしております。
今回のコラムでは、相続における不動産の諸問題について、ご説明させていただきます。
 

1 不動産の分割方法

不動産の分割方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つの方法があります。

(1)現物分割

現物分割とは、相続人の1人が単独で取得するという方法、または土地を分筆(分割)し、分筆後の土地をそれぞれが単独で取得するという方法です。
現物分割の方法には、土地の分筆が現実的に困難のことも多いという問題点もあります。

(2)代償分割

代償分割とは、相続人の1人が単独で不動産を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金(金銭)を支払って調整するという方法です。
一般的には、不動産の遺産分割では、代償分割の方法により解決を図るケースが多いです。

(3)換価分割

換価分割とは、不動産を売却して金銭に換えたうえで、その金銭を相続人間で分割するという方法です。
換価分割の方法には、不動産の売却に時間を要するなどの問題点もあります。

(4)共有分割

共有分割とは、不動産を各相続人の共有名義にするという方法です。
共有分割の方法は、後々、相続人の誰かがその不動産の買い取りを希望してきた場合や、第三者に売却して売買代金を分配することを希望してきた場合など、遺産分割後の問題を生じることがあります。
また、相続人の誰かが死亡してさらなる相続が発生した場合など、共有関係がさらに複雑になっていくことも考えられます。

2 不動産の評価方法

不動産の遺産分割では、不動産の評価方法が問題となることがあります。

(1)土地の評価の指標

土地の評価の指標として、次のようなものがあります。

①公示価格
公示価格とは、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年1月1日を基準日とし、特定の土地(標準地)の正常な価格を公表するものです。

②相続税評価額(路線価)
相続税評価額(路線価)とは、相続税や贈与税の算出のために使用される宅地の価値評価額のことです。

③固定資産評価額
固定資産評価額とは、固定資産税の算出のために使用される不動産の評価額のことであり、市町村が3年に1回の評価替えをします。

(2)不動産業者の査定と裁判所の鑑定

上記のような公的な指標のほかに、不動産業者の査定を参考とする場合もあります。

また、遺産分割調停・審判において、相続人間で不動産の評価方法について争いがある場合、鑑定の手続により、不動産の評価額が判断されることもあります。

(3)不動産の評価における注意点

不動産の評価方法には様々なものがありますが、相続人全員が合意するのであれば、どのように評価しても問題ありません。
実務上、青森県内に所在する不動産については、固定資産評価額を用いる例も多いと見受けられます。

不動産をどのように評価するかは、遺産分割の結果に与える影響が大きいため、慎重に検討する必要があります。

3 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

ある相続人が被相続人から生前贈与や遺贈を受けた場合、遺産分割のときにその相続人が取得できる相続分は、生前贈与や遺贈を受けた分だけ減らされるのが原則です。
一方で、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置が定められています。

この制度は、①婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、②その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をした場合に、被相続人がその遺贈または贈与について持ち戻しの計算の規定を適用しない旨の意思表示をしたものと推定される、というものです。

持ち戻しというのは、前述のように、遺産分割のときに取得できる相続分が生前贈与や遺贈を受けた分だけ減らされることです。
これに対し、上記の要件を満たす場合、被相続人が持ち戻し免除の意思表示(持ち戻しの計算の規定を適用しない旨の意思表示)をしたものと推定され、原則として遺産分割のときに取得できる相続分が減らされることはありません。

4 配偶者居住権・配偶者短期居住権

被相続人が死亡した時に、その配偶者が被相続人所有の建物に居住しているケースも少なくありません。
この場合、遺産分割の結果により配偶者が建物を取得することができないことも想定されますが、配偶者居住権・配偶者短期居住権の制度により配偶者の居住の継続が認められることがあります。

(1)配偶者居住権

配偶者が被相続人の死亡時に被相続人所有の建物に居住していた場合、一定の要件を満たすときは、配偶者が生きている間、その建物の全部分を無償で使用収益することができる権利が認められます。
これを配偶者居住権と言います。

【配偶者居住権の要件】

次の①~③のいずれかの場合に該当すること。
①遺産分割の結果、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされた場合。
②遺言書により、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされた場合。
③家庭裁判所の審判により、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされた場合。

(2)配偶者短期居住権

配偶者が被相続人の死亡時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、一定の期間については、そのまま引き続きその建物を無償で使用することができる権利が認められます。
これを配偶者短期居住権と言います。

【配偶者短期居住権が認められる期間】
次の①または②の期間。
①配偶者が建物の遺産分割に関与する場合には、その建物の取得者が決まった日、または、相続が開始した日から6か月間経過した日のいずれかの遅い日までの期間。
②(配偶者が相続放棄をした場合や、建物が第三者に遺贈される場合などにより)配偶者が建物の遺産分割に関与せず、第三者が建物を取得した場合には、その者から配偶者短期居住権の消滅の申し入れを受けた日から6か月間経過した日までの期間。

5 収益不動産の賃料の分配

遺産の中にアパート・マンションなどの収益不動産がある場合、相続人間で賃料の分配が問題となることがあります。

この点、被相続人が死亡する前に発生した賃料は、被相続人の遺産に組み込まれるため、遺産分割の対象となります。

これに対し、被相続人が死亡したあと、遺産分割が成立するまでの間に発生した賃料は、遺産分割の対象とはならず、各相続人が法定相続分に応じて取得するものとされます。

なお、遺産分割が成立した後の賃料は、その不動産を取得した相続人が単独で取得します。

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(弁護士・木村哲也)

当事務所の弁護士が書いたコラムです。

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