青森シティ法律事務所では、相続に関するご相談・ご依頼を多数お受けしております。
遺産分割の事案も数多く取り扱っており、中には遺産分割の問題がなかなか解決せずに、長い時間が経過してしまっている例も散見されます。
しかし、以下で述べるような理由から、遺産分割の問題は早めに解決いただくことをお勧めいたします。

1 問題の複雑化・深刻化

遺産分割の問題が未解決のままに長らく時間が経過すると、問題を複雑化・深刻化させてしまいます。

まず、遺産分割の問題が解決されないままに、相続人の誰かが亡くなった場合には、その相続人の相続人(妻や子など)が新たに遺産分割の当事者となります。
遺産分割は、相続人全員が参加しなければ成立させることができませんので、時間が経てば経つほど新たに遺産分割の当事者が増え、どんどん複雑化していくことが懸念されます。
遺産分割の当事者が増えれば増えるほど、それぞれの相続人の利害や思惑を調整することに難儀するようになり、また、元々の相続人同士の関係が良好であったとしても、新たに遺産分割の当事者が加わることで、一転して深刻な対立関係が生じることもあり得ます。

また、遺産分割の問題が未解決のままに時間が経過していくと、相続人がどんどんと年を取って高齢化していくことになります。
そうすると、相続人の誰かが認知症にかかるなどして、遺産分割の話し合いができなくなってしまうことも起こり得ます。
上記のとおり、遺産分割は、相続人全員が手続に参加しなければ、有効に成立させることができません。
そして、認知症にかかるなどして判断能力が欠けるに至った相続人は、法律上有効な意思表示や合意をなし得ないものとして、そのままでは遺産分割を成立させられなくなってしまうのです。
この場合において遺産分割を有効に成立させるためには、認知症にかかるなどして判断能力の衰えた相続人に対し、成年後見人を付けるための審判手続を家庭裁判所で行わなければならず、手間や費用の負担が発生してしまいます。

2 相続税の負担増

遺産の規模(遺産の総額)が一定以上であれば、相続税の課税対象となります。
相続税には、相続税が課税されるボーダーラインとなる基礎控除(3000万円+法定相続人の数×600万円)があり、遺産の規模が基礎控除の金額以下であれば、相続税の申告・納付は不要です。
一方で、遺産の規模が基礎控除の金額を超える場合には、遺産の総額から基礎控除の金額を控除した金額に対し、所定の税率により相続税が課税されます。

そして、相続税が課税される場合には、遺産分割が済んでいなくても、被相続人が死亡してから10か月以内に相続税の申告・納付をしなければならないものと決められています。
もし10か月の相続税の申告・納付期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税が課されてしまう可能性があります。
無申告加算税や延滞税は、10か月の相続税の申告・納付期限を遵守していれば課せられることのないものですから、遺産分割の問題が未解決であるために、無用の負担が増えてしまうということです。
また、10か月の相続税の申告・納付期限を過ぎてしまうと、配偶者の税率軽減の特例や小規模宅地等の課税価格の特例などの相続税を軽減(節税)できる制度の適用を受けることができなくなってしまいます。
これらの制度は、相続税の軽減(節税)の効果が非常に大きく、税務における重要性が高いものなのですが、10か月の相続税の申告・納付期限を遵守しなければ活用することができませんので、その分、相続税の税負担が増すということになります。
相続税の負担増により、取得できる遺産が目減りしてしまうことは、間違いなく大きなデメリットでしょう。

3 相続登記の義務化

相続登記とは、相続人が被相続人から相続した不動産の名義を、被相続人から相続人へと変更する名義変更登記手続です。
近年の法改正により、相続で取得した不動産の相続登記手続が2024年4月1日から義務化されることとなりました。
2024年4月1日以降は、不動産を相続したことを知ってから3年以内に、相続登記手続をしなければならなくなります。
そして、相続登記手続を正当な理由なく怠れば、罰則(10万円以下の過料)の適用を受ける可能性があります。
また、2024年4月1日以前に取得したことを知っている不動産については、2027年3月31日までに相続登記をすることが必要となります。
一方で、遺産分割がなかなかまとまらず、相続登記ができないという場合には、相続登記の義務を猶予する予備的な制度として、相続人申告登記(仮称)を行うことができます。
ただし、その後に遺産分割がまとまった場合には、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記をしなければなりません。

不動産の相続登記が義務化された背景には、これまで、不動産の相続が発生しても、相続登記が未了のまま放置されることが多かったという実態があります。
相続登記が未了のまま放置されて長い年月が経過し、所有者が分からなくなる事態が多々生じていたために、不動産の取引や公共事業・再開発などに支障をきたしていることが問題視されてきました。
そのため、昨今の法改正により、不動産の相続登記が義務化されるに至ったのです。
このような相続登記の義務化への対応という面でも、遺産分割の問題は早めに解決しなければなりません。

4 遺産分割のことは弁護士にご相談ください

以上のように、遺産分割の問題は、早めに解決する必要があります。
しかし、相続人同士の仲が悪いとか、相続人同士で揉めているとか、相続人の誰も遺産分割の話を切り出さないとか、仕事や家事が忙しくて遺産分割に着手できないとか、遺産分割の手続にかかる費用を懸念して躊躇している、などの理由により、未解決のままとなっている方もいらっしゃるかもしれません。
遺産分割の問題が未解決になっている方がいらっしゃいましたら、まずは専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
青森シティ法律事務所は、遺産分割の問題に関する経験と実績が豊富にございますので、お気軽にご相談いただければと存じます。

(弁護士・木村哲也)

当事務所の弁護士が書いたコラムです。

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